子どもたちの健康を守るために

1. 東京電力福島第一原子力発電所事故被害の現状

東京電力福島第一原子力発電所事故で発令された「原子力緊急事態宣言」は、事故後10年目の今も解除されていません。解除できない程に危険性があるからです。東京電力は40年廃炉計画を発表していますが、原子炉から溶け落ちた膨大な量の核燃料がどこにあるかもわかっていません。傷ついた核燃料冷却プールにある使用済み核燃料を地上のプールに移す作業もまだ半分も進んでいません。溶け落ちた核燃料を冷やすための水は高濃度な汚染水となりますがそこに地下水が流れ込んでいるために増える一方です。そこから核物質を取り除く装置を通しても除けないトリチウムその他の核種を含む汚染水は現在120万トン以上溜まり、貯蔵タンクは東京電力の敷地一杯になってしまいました。政府、東京電力はこれを薄めて海に流そうとしています。海産物の汚染が心配されるのは当然ですので、全漁連や地元自治体は強く反対しています。
東京電力の発表によれば福島原発の事故現場からは、今なお毎時約1.4万ベクレル(2020年6月)のセシウムが空中に放出されています。原発事故により福島第一原子力発電所敷地外に拡散された放射性物質は除染により放射性廃棄物となってフレコンバックに詰められ、1千万袋にも達しました。その多くはまだ農地や空き地に積まれています。また減容化のため8,000ベクレル/kg〜10万ベクレル/kgの木材や稲わら、牧草などは焼却されています。汚染土については環境省が再利用を計画し盛土、農地等で実証事業が進められています。これらは被ばく労働と莫大な費用と時間をかけて集めた放射性物質を同様な危険と費用をかけて再びばらまいていることに他なりません。事故前は放射性物質は原子炉や冷却プールの中に閉じ込められ厳しく管理されていましたが、今は環境中に広く拡散しています。焼却や汚染土の再利用はそれを更に助長するものです。

2. 子どもたちの健康を守るために望まれる正確な放射線教育

上に述べてきましたように東京電力福島第一原子力発電所事故後は私たちの生活の中に放射性物質がどこから紛れ込んでくるかわからない状態になってしまいました。さらにこれから何年かかるともしれない廃炉作業中に再度放射性物質が放出されないとはいえません。これから成長していく子どもたちはこれらがもたらす危険性と向き合って生きていかざるを得ないのです。放射線から身を守るためには放射線が健康に与える影響を正しく知る必要があります。
原発事故後、日本政府は省庁のWebページや学校に配布されている「放射線副読本」等さまざまな印刷物で、「100ミリシーベルト以下の被ばく線量では、被ばくによる発がんリスクは生活環境中の他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さい」、「100ミリシーベルトの被ばくのリスクは野菜不足と同程度」等と述べて、放射線安全教育を行っています。この放射線安全教育は2011年12月に内閣官房から発表された「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ」の報告に基づいています。しかし、この報告以後に発表された論文では年間数ミリシーベルト程度の自然放射線でも小児に白血病や脳腫瘍が増加するという報告が増え、野菜不足と発がんの関係はそれを言い出した国立がん研究センターのWebページで否定されています。
放射線によるDNA損傷から発がんへのメカニズムもかなり明らかになり、疫学調査も大規模になるなど科学は確実に進歩しています。しかし、放射線の健康影響に関する学校及び社会教育は、新しい発見とは無縁のように見え、特に100ミリシーベルト以下のリスクについては、原発事故前の原子力安全神話を彷彿とさせます。
放射線にはこれ以下だったら安全という境界の線量(「しきい値」)はありませんし、線量に比例してがんは増えます。国際放射線防護委員会(ICRP)も放射線防護は、しきい値なし直線(LNT)モデルに基づいて行うよう勧告しています。放射線には安全量はないので被ばくはできるだけ避けたほうがよいということです。
事故を起こした大人には子どもたちが将来自分で健康を守ることができるように、放射線の正しい知識を提供する義務と責任があります。

作成 : 2020年10月 最終更新 : 2020年12月